世界モノレール営業距離ランキング
2017年現在とこれからの予測
2017.06.19/mjws.org コラム記事
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過去、未来の象徴として描かれた新交通システム「モノレール」。
現在ではコンクリート軌道桁にゴムタイヤという組み合わせこそが「モノレール」として認知される時代となり、さらに日本はそのシステムそのものを輸出する、世界最大のモノレール大国となるまでに至っています。
ここ10〜20年の「モノレールシステム」の世界への展開および普及の勢い凄まじく、モノレール大国と呼ばれた「日本」の位置づけは、既に過去のものとなりつつあります。
かつて営業距離でギネス記録を保持していた「大阪モノレール」も、中国重慶市の2号線および3号線の開業によってその座を奪われる事となりました。
上述した重慶軌道交通3号線(重慶モノレール3号線)は、2017年に空港支線が事実上の開業を迎え(現在は試験運行という位置付け)、自身のもつギネス記録を大幅に更新する事となりました。
さらに今後次の10年に目を向けると、
・ブラジル・サンパウロメトロの正式な開業
・インド圏の長大なモノレール路線計画
・東南アジア圏のモノレール路線計画
・中国CRRC、BYD勢の国内外へのモノレールシステムの展開
と、正ににここからが「モノレールシステム」の本当の意味での展開時期に差し掛かっているといって良いと言えます。
今回のコラムでは、今現在の世界における「モノレール」路線の敷設状況を、路線距離ランキングとして示しました。
日本目線から見た場合、大阪モノレールの路線距離が世界的に何位に位置しているのか、今後どのような位置づけになっていくのか、ひと目で確認できるようランキング形式で紹介していきます。
1.2017年現在におけるモノレール路線長ランキング
まず始めに紹介するのが、2017年(6月)現在における、世界のモノレール路線長ランキングです。
大阪モノレールが過去、営業距離においてギネス記録を保持していた事は有名ですが、現在はその座を中国・重慶市の重慶軌道交通2号線および3号線に奪われています。
とはいうものの、実際にどれくらいの差でその順位を奪われたのかイメージする事は難しいと思います。
そこで、図1に「2017年現在におけるモノレール路線長ランキング」を示しました。
図1 2017年現在におけるモノレール路線長ランキング
ランキングの1位と2位に並ぶのが、上述した重慶軌道交通(重慶モノレール)の3号線および2号線です。
重慶モノレール3号線は2017年に支線である空港線9.9kmが開業し、路線長を65.9kmに伸ばしました。
これは、現大阪モノレールの本線21.2kmおよび彩都線6.8kmを合算した28.0kmの倍以上の距離となります。
事業着手は未だではあるものの、同じく重慶モノレール2号線にも支線建設の計画があり、今後場合によってはさらに営業距離を伸ばす事も予想されています。
さて、このランキングには未だ登場していないものの、現在建設が進められているモノレール路線は多数あります。
その中には、今回のランキングに入り込んでくる程の規模のモノレール建設事業も存在し、今後10年間で4位以降のランキング順位は大きく変動する事が決定的と言えます。
次項 2.2030年頃におけるモノレール路線長ランキングでは、これら新規建設路線をランキング上にプロットし紹介したいと思います。
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2.2030年頃におけるモノレール路線長ランキング
2030年と言えば少し先の未来の話に聞こえますが、インフラストラクチャーを考える上ではすぐ目の前の話。
世界規模においては、多くのモノレール路線が計画段階を終了し建設の段階へと駒を進めています。
その先頭を走るのが、主にブラジル圏、東南アジア圏、そして中国圏のモノレール建設計画です。
特にブラジル圏では、サンパウロメトロ15、17、18号線の事業が既に着手され目下建設が進められている状況となっています。
東南アジア圏においては、細かい路線まで含めると既に詳細を追うのが困難な程、計画が乱立している状況です。
中国圏では自国内外の路線計画に加えマニュファクチャラー国としても自立が進んでいます。
CRRCでは跨座、懸垂両方式でのモノレールシステムの開発、自動車メーカーであるBYDもここにきて跨座式モノレールのパッケージ展開を進める動きを見せています。
話が少し脱線しましたが、これらを踏まえランキング解説に戻りたいと思います。
2017年現在建設工事が進められ、2030年頃までに完成すると見込まれる新規路線を、図2「2030年頃におけるモノレール路線長ランキング」上にプロットしました。
最左欄に示めす路線名称において、黄色で示されている路線が新たにランキングに加わると考えられる路線となります。
図2.2030年頃におけるモノレール路線長ランキング
日本国内でランキングに影響すると考えられるのは、現在の所大阪モノレールの瓜生堂延伸事業のみ。
延伸開業を果たすと、営業距離を9km伸ばし総距離37.0kmのモノレール路線になる事がほぼ決定しています。
この時点で大阪モノレールは、現ランキング2位の重慶モノレール2号線を抜き2位に繰り上がります。
同重慶モノレール2号線は支線の建設事業に新展開が無いとした場合、モノレール建設後発国であるタイ2路線にその座を奪われる事が考えられます。
タイ・バンコクMRTは、本年度6月16日にタイ政府によって正式にモノレール2路線の建設の認可がおりる事となりました。
今後の進捗を慎重に見つめる必要があるものの、開業を果たした場合、30km級のモノレール路線が2線ほぼ同時に誕生する事となります。
ランキング6位以降は混戦の様相を呈する事となります。
まず日本政府のODAによる支援が決定したパナマメトロ3号線整備事業では、パナマ運河を越河する全長26kmの日本跨座式モノレールがパナマの地に誕生します。
建設事業の遅れが頻繁に報道されるサンパウロメトロも、この時期にはようやく開業の目処がたっているものと考えられます。
ランキング10、11位に付けると考えられるのが、マレーシアの後発モノレールマニュファクチャラーが手がけるサンパウロメトロ17号線およびムンバイ・モノレール。
ムンバイ・モノレールは2017年秋頃にフェーズU(延伸部)の開業が予定されており、全長は20kmに拡張されます。
サンパウロメトロ17号線、ムンバイ・モノレール共に、採用するモノレールシステムはScomi社製のSUTRA。
不確定要素が多く今回のランキングには加えておりませんが、この他にも中国圏およびそのマニュファクチャラーによるモノレール路線建設計画が多数存在します。
3.マニュファクチャラー別に見た場合の2030年頃におけるモノレール路線長ランキング
さて、上述した 図2.「2030年頃におけるモノレール路線長ランキング」では、もう一つのランキングの見方が存在します。
それが、モノレールマニュファクチャラー別における路線長ランキング。
2017年時点において、世界三大モノレールマニュファクチャラーとして位置づけれらているのが、
「日立製作所(Hitachi)」、「Bombardier」および「Scomi」の3社。
図3に「2030年頃におけるモノレール路線長ランキング(マニュファクチャラー別)」を示しました。
上述した3社によって、世界のモノレール路線は建設および路線形成されている事が分かります。
特筆すべきは、2017年のランキングから、2030年のランキングに新たに登場したモノレール路線におけるマニュファクチャラー。
一時、後発のScomi社が圧倒的優勢に立っていると考えられていましたが、ここに来て3社の新規受注路線および総延長数は拮抗。
これまで圧倒的な実績を積み上げてきた日立製作所の優位はしばらく続くこととなりそうです。
鉄道業界において世界ビッグスリーの一角を担うBombardier(ボンバルディア社)も、ここに来てCSR(南京浦鎮車輛廠株式会社(CSR南京Puzhen株式会社))との連携を強化。
両社合弁企業を軸としつつ、東南アジア圏での覇権獲得を目指しています。
図3.2030年頃におけるモノレール路線長ランキング(マニュファクチャラー別)
なお、ランキング上位路線(上横棒グラフ)=路線長16km以上に限定し、割合化したものを下の円グラフ(図3b)に示します。
左が現時点でのデータ、右が2030年頃の予測によるデータを示したものです。
日立製作所の勢力は依然として高いものの、このまま2030年を迎えたとした場合その割合は6割程度になる事が予想されます。
図3b.マニュファクチャラー毎における割合
(左が現時点でのデータ、右が2030年頃の予測によるデータ)
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4.20XX年、世界のモノレール路線長ランキングはこうなっている?
(2017年度ベース版)
2017年6月、堺市、松原市等は大阪府に対して大阪モノレールの堺市方面への延伸を要望、次期近畿答申へ盛り込むよう働きかけを行っています。
これを受けて該当の沿線市域はにわかに盛り上がりを見せ、ネット上でも多くの意見が飛び交いました。
大阪モノレール自体は2016年度に瓜生堂迄の延伸が決定し、今後2029年の開業を目指し事業が進められていく事となります。
ここで気になってくるのが、延伸後、そしてその先に計画される路線が完成した際の総延長。
大阪モノレールはかつて中国重慶市のモノレールに抜かれるまで世界最長の路線距離をほこり、ギネスにもその名を連ねていた時期がありました。
ちなみに、現在世界最長の路線距離を誇る重慶モノレール3号線(重慶軌道交通3号線)の営業距離は56km.
2016年度末に空港支線が試験開業を果たし、その距離はついに66kmとなりました。
重慶ではさらに同2号線が延長距離30kmでの営業を続けており、2および3両線での合計距離は、実に96kmにもおよびます。
先日、当サイトの関係者から一つの話題が挙がりました。
冒頭申し上げた大阪モノレールが、将来的に堺まで延伸した場合、どの程度の営業距離となるのか。
そして、その総距離はそれ相当なものになると考えられるが、ギネス記録ホルダーとしての返り咲きはあるのか、というものです。
大阪モノレール環状線構想は元々、府道2号中央環状線場に敷設が想定および計画されています。
このため、瓜生堂以南、三原ロータリー経由、南海線堺駅直近の中央環状線(フェニックス通り)沿いに路線を延伸したと仮定し営業距離の算出を行いました。
この結果、瓜生堂〜三原ロータリー間が13km、三原ロータリー〜堺駅直近までが9.9kmとなり、総延長としては59.9kmとなる事が分かりました。
これを、上述してきたランキングに当てはめたデータを図4(20XX年頃におけるモノレール路線長ランキング)に示します。
図4.20XX年頃におけるモノレール路線長ランキング
この結果、大阪モノレールが堺まで延伸を果たしたとしても、既ギネスホルダーである重慶軌道交通3号線の営業距離65.9kmを超えることは出来ないことが分かりました。
その他のランキング掲載路線についても、将来の延伸計画が現時点で存在するものについてはランキング中に追加で示しました。
ここまで紹介してきたランキングは、あくまで2017年時点で判明しているデータを元に制作したものです。
今後10年の間に、恐らく相当な量のモノレール路線新設計画が浮上してくる事でしょう。
本データ掲載中にも、既に多くの新設路線計画の情報が飛び込んできていましたが、ある一定の段階で線引きが必要と考え今回の掲載に至りました。
今後は、およそ年1回のペースで最新情報として更新しレポートを掲載していく予定としています。
/mjws編集室 2017.6.20最終更新データ
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記事編集者:田村拓丸 Takumaru Tamura
MJWS代表 ・ 編集室 デスク (Representative・Assistant editor)
モノレール運行会社との情報交換を基に、コミュニティ向けの講演を実施。モノレール関連記事の執筆や校正、デザイン画の構成・作成、モノレールインフラの維持発展を目指した多岐にわたる活動を展開。 |
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