立川北駅・立川南駅(東京都立川市)を中心に、多摩センター駅(同・多摩市)から上北台駅(同・東大和市)まで約16kmを南北に結ぶ多摩都市モノレール。
この路線の成り立ちは、1981年に示された 多摩都市モノレール等基本計画調査報告に示された 全長約93kmの環状路線構想をベースとしています。
つまり、現状開業している路線上は、この全体構想のうちの わずか17%に過ぎないわけです。
北の上北台から箱根ヶ崎間における7.2kmの延伸ルートでは、東京都が2020年度予算案で事業着手へ向けた予算を計上。2022年度には基本設計業務が完了する予定となっていて、いよいよめにみえる形で整備が開始されます。
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多摩都市モノレール等基本計画調査報告に示された
全長約93kmの環状路線構想 |
箱根ヶ崎駅に入線する八高線JR車両 (c)MJWS 田村拓丸 |
現状開業している路線は、この全体構想のうちの わずか17%に過ぎない。 |
このいわゆる箱根ヶ崎ルートが開業すると、多摩モノレールの全長は23.2km近くに拡大。構想に対する開業率も25%へと大きく前進します。
さらに南側の多摩センターから町田間についても、16kmのルートが決定。ここまで合わせると、多摩モノレールの全長は39.2kmとなり、構想上の開業区間は42%に近くまで至ります。
さて、ここで少しの疑問が生じます。これだけ開業したとしても、構想の42%にした達しないというのは、この他の構想路線っていったいどんなルート?というもの。 |
箱根ヶ崎、町田間が開業すると多摩モノレールの全長は39.2kmとなり、構想上の開業区間は42%となる。 |
延伸ルートの検討については、歯に衣着せぬ言い方をしてしまうと、やはり優先度の高い、つまり人口や都市の形成が進んでいる地域に開通させる事が優先されるものです。モノレールや鉄道の開発が進んでいた時期は、都市形成と鉄道路線の配置は同時に考えられていたものですが、これを起因として消えていった鉄道が存在するのも事実。少なくとも今現在では鉄道等のインフラは後追いで配置される傾向に変わっています。先程申し上げた延伸整備路線のいくつかは、様々な事情で優先度が高いとして考えられた路線である事を意味しています。
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今回はこれら、現在整備自体進んでいない、その他の構想ルートと位置付けられるいくつかのルートのうち、箱根ヶ崎ルートの新たな終点となる箱根ヶ崎から、羽村、秋川に至る、羽村秋川ルートについてピンポイントで紹介します。
多摩モノレール延伸構想を取り巻く現状について触れると、多摩モノレールでは現在、北の上北台から箱根ヶ崎、南側の多摩センターから町田、八王子に至る3つの延伸検討ルートが存在します。
このうち北の上北台から箱根ヶ崎間における7.2kmの延伸ルートでは、2021年度にはついに、基本設計に着手する事となりました。開業は2032年頃が想定されています。 |
多摩モノレール羽村秋川構想ルート |
さて、この箱根ヶ崎ルートの延伸開業によってもろに影響を受けるのが、この箱根ヶ崎よりさらに先に位置する、羽村、秋川までの次期構想上ルート。
東京都あきる野市では、この延伸を求める市民団体「モノレールを呼ぼうあきる野の会」の準備会が2020年11月6日に発足しました。 |
五日市線羽村駅、構想上はここもモノレール延伸ルートに含まれる。 |
箱根ヶ崎ルートが存在していなければ、上北台駅から直接的な延伸は事実上不可能であるため、これまで可能性が限りなく0に近い状態から、箱根ヶ崎ルートの延伸決定を受け、にわかに可能性がある という状態となりました。
今後の気運醸成次第では、先20~30年後の開業も、可能性としては出てきた状況です。
かなり先、という意見がありそうですが、インフラ整備というものは そもそも10年から、長い場合には2から30年後 という案件も珍しくありません。該当地域の 現役というよりはむしろ 後継の方々がどのように 今後判断していくのか見守っていきたいものです。さて、前段が長くなってしまいましたが、この羽村秋川 構想ルートについてみていきましょう。 |
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羽村秋川ルートの起点は、箱根ヶ崎ルートの延伸開業によって、多摩モノレールの新たな終点となる箱根ヶ崎駅から。
現状基本設計が出ていないため、あくまでも推定ですが、JR八高線の箱根ヶ崎駅上部に配置された モノレールの箱根ヶ崎駅を出た羽村秋川ルートは、箱根ヶ崎駅西口交差点より都道
163号線に入ります。 |
八高線箱根ヶ崎駅 (c)MJWS 田村拓丸 |
駅前こそ最小で22mの幅員が確保されていますが、以降に配置される都市計画道路 福生3・4・12号線については、次の主要鉄道接続駅となる羽村駅まで18m幅員道路として計画されています。 |
多摩モノレール延伸No.7駅設置想定位置
(c)MJWS 田村拓丸 |
この周辺では 南側に横田飛行場が位置しています。空港等には当然、飛行機が飛び立つ滑走路が存在するのですが、この滑走路の周辺には、航空法により高さ制限というものが設けられています。よくコメントで見る言い方を用いましたが、この高さ制限の事を 正確には制限表面と言います。
航空機が安全に離着陸するため、空港周辺には高さを制限する表面が設けられており、この制限表面を超える建物等の設置は、航空法第49条により原則禁止されているわけです。
現在設計が進む箱根ヶ崎ルートでも一部コメントされている事ではありますが、箱根ヶ崎駅やその周辺については、この制限表面にかかっている区域が多く存在します。
今回特に問題になりそうなのが、制限表面のうち、飛行機の離着陸に直接影響する進入表面とよばれる制限表面。横田基地を過ぎ、箱根ヶ崎駅西側の区域にも、一部 今回の羽村秋川のモノレールルートが 掛かる可能性が高いわけですが、この付近はもろに、この進入表面にかかっています。
この手前 滑走路直後に配置されるJR八高線については、滑走路橋からの距離がおよそ215m、計算上の高さ制限は4.3m、最短距離部分で3.8m程度となります。車両限界を4.1mとおいても この高さ制限にかかってしまう事から、八高線の線路は半地下構造となっているものと推定されます。
多摩モノレールの既存本線においても、中央大学・明星大学駅および多摩動物公園駅間で掘割、トンネル構造を有した区間がありますが、こちらは山間部を通過するために採用した構造。
航空法に対応し、軌道高さを下げるためには、滑走路先に位置する区間のルートについて、類似した構造を採用する可能性も出てきます。
さてここから先、少し粗目の解説を行いますが、単語の意味などが気になる方は別途航空法を参照いただければと思います。
さて、この区域、進入表面前後のルートについては、水平表面45mの対象となる範囲が多いわけですが、この区域については、モノレールの高さは意図的でない限り20m以内に収まる事がほとんどですので除外、つまり今回は進入表面上の影響を主に考えます。
進入表面の高さ制限が気になる、横田滑走路および横田基地のスペックを据え置くと、滑走路長さが3353m 等級A 2550m以上となるます。今回の計算では、これらの数値を計算に用います。
精密 計器進入の場合 表面勾配が50分の1という事になりますが、横田基地では着陸方式をILSとしており、この数字を使用し試算します。 |
着陸帯の端からの距離、および距離に対する高さ制限値を ざっくりとではありますが地図上にプロットします。 |
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あくまでもこれらの数字上ですが、モノレール延伸ルート位置は、そのほとんどが制限11mの範囲となりそうです。 |
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モノレール支柱は、一般的には10m程度、ミニマムで6.7m程度の実績があり、その上に乗るモノレールの車高はおよそ5mとなっています。つまり合計値は
基本的構想を保持、かつ最小で11.7m、素人計算上ではあるものの、現状では最小値で1m程度、進入表面の高さ制限にかかっている事になります。地下トンネルで通過させるまでの規模感ではないものの、道路構造は最低でも1m程度、低くするなどの配慮が必要となってきそうです。
常識的に考えると、先程紹介した掘割構造が妥当で、上部の自動車の交通を配慮するとなると、トンネルという選択も視野に入ってくるかもしれません。
さて、ここで補足ですが、現在心配されている箱根ヶ崎ルート上 箱根ヶ崎駅手前付近については、転移表面位置に入るものと考えられます。
こちらも高さ制限を気にする声がありますが、転移表面勾配については7分の1として計算され、最も滑走路側面と近づくモノレールルートとの距離は350m、計算上はほぼ50mとなります。
仮に水平表面の45mを取ったとしても、モノレールの高さ高く見積もってもせいぜい25m程度となるため、こちらについては現状 高さは考慮しなくても問題はなさそうです。
もっとも、取り回し上 地下化する等の配置がある可能性はありますが、現状心配されている高さ的には、影響はないと考えてよさそうです。
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さて、モノレールルートに沿って進んでいきましょう。
ここまで瑞穂町区域を進んできたモノレールルートは、西多摩自動車学校付近より羽村市域へ入ります。道路名称は163号線、羽村街道。読んで字のごとく、この先には羽村駅が位置しています。 |
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羽村駅はJR東日本青梅線の駅。島式ホーム1面2線を有する地上駅で、橋上駅舎構造を有しています。
今回紹介している羽村秋川構想ルートでは、このJR線の羽村駅に直接乗り入れるわけではなく、この駅の南手に位置する 福生3・4・12号線上 旧青梅街道とのクロッシング位置に駅舎が配置されるものと推定されます。
理由は何点かありますが、一つは、現状開通していない福生3・4・12号線が、この先も羽村大橋に向かって続いている事と、この地点の幅員が 最低幅員で24m道路として計画されている事 等が挙げられます。 |
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この都市計画道路は、羽村大橋まで続いているものの、現状では整備着手されていません。
ここ、羽村大橋は、現行自動車および歩道用として架けられた橋で、モノレールもさることながら、鉄道線を引く場合 これとは別に橋を配置する必要があります。 |
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さて、ルートはこの後、羽村大橋付近に新たに軌道を設置し多摩川を越境、ここからあきる野市に入ります。 |
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都市計画道路名称はここから、幅員18mとなる秋川3・3・9号線へ。このルートで唯一、山間部を切土で抜ける線形を有する区間へ入ります。勾配こそ急ではないものの、長めの上り坂、そしてその後 長めの下り坂が続きます。 |
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この山間部を下りきると、氷沢橋交差点が見えてきます。 |
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氷沢橋交差点よりモノレールルートは右折、以降 都市計画道路 秋川3・4・6号に沿って西進を開始します。御覧の通り、道路幅員は既に25m程度が確保されており、見た目にも立派な道路となっています。補足ですが、モノレール導入には22m程度の幅員を有する動画必要で、この区間に限っては既にモノレール導入の要件を満たした道路が配置されている、といった状況です。
構想図をトレースすると、現在の日野出インターチェンジ手前で モノレール構想ルートは左折。ここから幅員30m道路となる 都市計画道路 秋川3・2・11号 駅前大通りまで、現在都市計画道路の配置がありません。今回はあくまでも構想図からの推定という事で、今回はここをつっきるルートで進みます。 |
この区間を抜けると、抜けた先には駅前大通りが位置しています。現在ここまでの区間に都市計画道路の設定はありませんが、遠い将来、184号線からここまで、道路を配置したそうな線形ではあります。 |
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秋川駅まで続く駅前大通り沿線は、多くの商業施設も林立しており、街並みも綺麗に整備されています。
駅前大通りの末端部に、JR五日市線の秋川駅が位置しています。開業当初は西秋留駅を名乗っていた秋川駅、東秋留駅と対を成していましたが、事実上 秋川市の代表駅であったことから、市名に合わせて秋川駅と改称されました。
同市はのちの合併であきる野市となりましたが、秋川駅の名称はそのまま引き継がれ、現在に至っています。
モノレール構想ルート自体は、この秋川駅を超え、八王子駅に至るルートとして示されています。
多摩モノレールではこのほかにも、多摩センターから八王子に至る、南側のルートが存在しますが、今回紹介したルートは、この北側からのアプローチルートとなっています。
この北側八王子ルート、秋川駅より南側については、都市計画道路の配置がなかったり、道路の幅員整備も進んでなかったりと、延伸実現にはかなり厳しい状況であると言えます。
さて、今回は多摩モノレール全体構想の内、次期検討路線として上がってきそうな、羽村 秋川ルートについて紹介しました。 |
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