モノレールに関するニュース&トピックス

モノレールに関するコラム
-2018年度-

モノレールニュース国内編 

世界モノレール営業距離ランキング
2018年現在とこれからの予測

2018.11.24/mjws.org コラム記事
    世界のモノレール営業線における営業距離を調査する企画「世界モノレール営業距離ランキング(2018年現在とこれからの予測)」、昨年2017年に引き続き2018年度版考察結果を掲載します。

 過去、未来の象徴として描かれた新交通システム「モノレール」。現在ではコンクリート軌道桁にゴムタイヤという組み合わせこそが「モノレール」として認知される時代となり、さらに日本はそのシステムそのものを輸出する、世界最大のモノレール大国となるまでに至っています。ここ10〜20年の「モノレールシステム」の世界への展開および普及の勢い凄まじく、モノレール線を保有するという意味合いでのモノレール大国「日本」の姿は既に過去のものとなりつつあります。

 かつて営業距離でギネス記録を保持していた「大阪モノレール」も、現在では中国重慶市の2号線および3号線(共にモノレール路線)の開業によってその座を奪われる事となりました。上述した重慶軌道交通3号線(重慶モノレール3号線)は、2017年に空港支線が開業し、同線のもつギネス記録を更に更新する事となりました。

重慶軌道交通3号線モノレール車両
(c)gui yong nian- stock.adobe.com

重慶の街並
(c)onlyyouqj- stock.adobe.com

今回、昨年の考察結果時点で情報が不足していた中国蕪湖市のモノレール2路線について概要の確認が取れましたので、これら新規路線を追記する形で、更新した営業距離ランキングを公開します。

1.2018年現在におけるモノレール路線長ランキング

まず始めに紹介するのが、2018年(11月末日)現在における、世界のモノレール路線長ランキングです。現在首位の座にいるのは、冒頭触れました中国・重慶市のモノレール2路線(重慶軌道交通2号線および3号線)(図1)。

 
図1 2018年現在におけるモノレール路線長ランキング
その営業距離は3号線単線で66kmにも及び、ランキングのトップを独走している状況です。さらにランキングの2位につけているのが、同重慶軌道交通の2号線。こちらも大阪モノレールの28.0kmを抑え、30.0kmで2位となっています。一昨年のデータでも触れましたが、重慶モノレール3号線は2017年に支線である空港線9.9kmが開業し、路線長を65.9kmに伸ばしました。事業着手は未だではあるものの、同じく重慶軌道交通2号線にも支線建設の計画があり、今後さらに営業距離を伸ばす事が確実です。

さて、このランキングには未だ登場していないものの、中国にはさらに建設が進められている長距離モノレール路線が存在します。次項「2025年頃におけるモノレール路線長ランキング」ではこの路線を含めつつ、先7年後の2025年時点において世界のモノレール営業距離ランキングがどの様に変化しているのかについて紹介します。


 2.2025年頃におけるモノレール路線長ランキング

2025年と言えば少し先の未来の話に聞こえますが、インフラストラクチャーを考える上ではすぐ目の前の話。世界規模においては、多くのモノレール路線が計画段階を終了し建設の段階へと駒を進めています。その先頭を走るのが、主にブラジル圏、東南アジア圏、そして中国圏のモノレール建設計画です。
 中国圏では重慶軌道交通の路線長が他を圧倒しているわけですが、ここにきて更にこの営業距離に匹敵する長距離モノレール路線の建設が開始されました。それが蕪湖市に建設が進められている蕪湖軌道交通1号線および2号線です。

2-1.蕪湖市軌道交通1号線および2号線


 中華人民共和国西部安徽省蕪湖市。長江と青弋江が合流する地でも知られるこの土地で、現在重慶軌道交通並みの長距離を有する事となるモノレール路線の建設が進められています。それが蕪湖軌道交通の1号線(30.4km)および(2号線1期区間16.246km)です。

 工事開始は1996年の12月24日。蕪湖軌道交通2号線の車両基地付帯駅となる梦溪路の開工によって開始されました。現在、蕪湖軌道交通1号線30.4kmおよび2号線1期区間16.246km共に2020年1月1日の開業を目指し工事が進められている状況です。

2-2.システムはボンバルディアINNOVIA300

 採用されたモノレールシステムは、重慶軌道交通で採用された日立(日本)のシステムではなく、 ボンバルディア・トランスポーテーション(Bombardier Transportation)のINNOVIA Monorail 300 System およびCITYFLO 650自動列車制御システム。ブラジルのサンパウロメトロ15号線で採用された事等でも有名で、基本構造は日立アルウェーグと同様のゴムタイヤとコンクリート軌道桁を用いたもの。操業は無人の自動管理&運転システムを採用しています。蕪湖軌道交通の場合、導入はBombardier TransportationおよびCRRCのJVであるPBTSが行う事となります。

蕪湖軌道交通1&2号線概略図

中国圏外として、ブラジル圏では、サンパウロメトロ15、17、18号線の事業が既に着手され目下建設が進められている状況となっている他、アメリカ大陸県ではパナマ共和国に日立製モノレールの導入が決定されています。
mjws モノレールニュース 
モノレールに関する海外のニュース
2018.8.29
パナマメトロ3号線(モノレール)事業本格化、
8月29日事業業社との契約締結。

また、今回ランキングを変動させる要因となる路線がタイ王国はバンコクに建設が進められているピンクラインとイエローラインの2路線です。両路線は共に営業距離30kmを超すモノレールとしては長大の路線で、現行営業距離を28kmとする大阪モノレールの営業距離をも一期建設計画で抜いてきます。2路線は、2017年6月に事業の契約が結ばれて以降ほぼ同時に建設工事が開始されました。完工は2021年〜2022年頃が予定されているため、以下に示す2025年末予測ランキングにも当然名を連ねてきます。

これらを踏まえ計画が新たに決定した路線および建設が進められている路線を付加したランキングを図2に示しました。なお、このランキングにおいて、大阪モノレール(日本)の瓜生堂までの延伸計画中の距離は未考慮といたしました。大阪モノレールの瓜生堂までの延伸開業は2029年が予定され、ほぼ確実に建設が行われる事となります。しかしながら、現時点において建設自体が開始されていない事から他の路線と条件を揃えるべく、当ランキングにおいては計上外としております。
 
図2.2025年頃におけるモノレール路線長ランキング(推察)

2-3.16位:16.24km・蕪湖軌道交通2号線

 ランキングの概要および考察についてですが、まず赤でハッチングした路線が今回新たにランキングに加わった路線という事になります。ランキング下部、多摩モノレールの一位分上位に付けたのが中国は蕪湖軌道交通の2号線です。2025年時点において蕪湖軌道交通2号線は計画される1期工事16.2kmが開業している予定で、ランキングのこの位置に登場してくるはずです。さらに2号線は、この後追加区間となる2期工事(推定15.8km程度)の着手が計画されており、これが完成を見るとランキングの上位3位以内に入ってくる事も予想されます。

路線別紹介 蕪湖軌道交通2号線(中国)
 

2-4.15位:17km・沖縄都市モノレール(ゆいレール)

 沖縄で営業を続ける沖縄都市モノレール(通称ゆいレール)も今回15位にランクイン。ゆいレールは2018年現在、既存の終点である首里駅からてだこ浦西駅までのおよそ4kmを延伸工事中で、2019年度での延伸部開業を果たします。営業距離はトータルで17kmとなり、東京モノレールの17.8kmに次ぐ15位としてランキングに加わる事となります。

沖縄都市モノレール(ゆいレール)

てだこ浦西まで延伸工事中

2-5.4位:30.37km・蕪湖軌道交通1号線

 16位に入った蕪湖軌道交通2号線のもう一つの路線として建設が進めらている蕪湖軌道交通1号線。営業距離30.37kmは2025年時点でランキング4位に付ける事が想定されます。この30.37kmという営業距離は、現在営業距離の首位を走る重慶軌道交通3号線(2018年時点1位)および2号線(2018年時点2位)の間に割って入るほどの長営業距離数で、これはつまり大阪モノレール(2018年時点3位)の営業距離を、単発の開業で抜いてしまう事になります。蕪湖軌道交通1号線は、この30.37kmという路線距離で一応の完成を見るため、今後上位に路線がランクインしてこない限りはこの位置に据え置かれる事となりそうです。

路線別紹介 蕪湖軌道交通1号線(中国)
 

2-6.3位:30.4km・タイ、バンコクMRTAイエローライン

ランキング3位に付けるのが、タイ王国で建設が進められているバンコクMRTAのイエローラインです。バンコクMRTAの計画路線は、後程紹介するピンクラインの他にも多数の建設計画が浮上していて、今後ランキングの変動に大きく関わってくるものと考えられます。
タイバンコクモノレール イエローライン
路線別紹介 MRTAイエローライン(タイ王国)
 

2-7.3位:34.5km・タイ、バンコクMRTAピンクライン

3位のイエローラインと並びランキングに変動を起こしたのが、タイのバンコクMRTAピンクラインです。営業距離は34.5kmが計画されていて、上述した重慶軌道交通2号線(30.04km)、蕪湖軌道交通1号線(30.37km)を抑え堂々の2位にランクインしました。モノレールシステムとしては蕪湖軌道交通への導入が決定しているボンバルディア社のINNOVIA300モノレールシステムを採用。実は、今回ランキングに変動を及ぼした4路線は、全てこのボンバルディア社のモノレールシステムを採用しています。これにはすこしカラクリがあり、これらボンバルディア社のモノレールシステムの導入はBombardier TransportationおよびCRRCのJVであるPBTSが行う事となっています。既にお気づきであるとは存じますが、これらは鉄道事業で海外進出を推し進めたいCRRC(中国中車)と、製品の海外展開を進めたいボンバルディア社の利害が一致した事によるものです。タイを代表とするインフラ後進国の整備(特にモノレールについて)をこれらJVが新規に獲得し続けている結果がこのランキングに現れています。
タイバンコクモノレール ピンクライン
路線別紹介 MRTAピンクライン(タイ王国)
 

以上が、今回ランキングに影響を及ぼした主要上位路線の概要です。特に東南アジア圏においては、細かい路線まで含めると既に詳細を追うのが困難な程計画が乱立している状況です。特に上述したタイや中国国内においては、情報を追いきれない程の計画やその契約に関するニュースが日々飛び交っています。2019年度も同様にランキングを紹介する予定ですが、この内容がどの程度まで変化しているのか現状では全く予想がつきません。

3.2025年頃におけるモノレールマニュファクチャラー路線長ランキング

2-7.タイ、バンコクMRTAピンクラインの概要で触れましたが、営業距離ランキングにはもう一つの顔が存在します。それが、各路線に採用されるモノレールシステム、ひいてはそのマニュファクチャラー。モノレールといえば、現時点では日立製作所、ボンバルディア、スコミ、BYDが代表的なマニュファクチャラー(設計製造メーカー)という事になります。

それでは、先程図2で紹介した、「2025年頃におけるモノレール路線長ランキング」について、マニュファクチャラー別に色分けを行います。図3をご覧ください。


図3.2025年頃におけるモノレール路線長ランキング
(マニュファクチャラー別色分)
 
 まず図の見方ですが、赤が日立製作所製のモノレールシステム、網目付きの青がPBTS(ボンバルディア社とCRRCのJV)、青がボンバルディア社、紫がスコミ社、ピンクがBYD社となっています。この様にマニュファクチャラー別に色分けをすると、いかに日立製作所が世界のモノレール市場を席捲しているかという事がお分かりいただけるのではないでしょうか。しかしながらこのランキングで注目したいのは実は日立製作所ではなく、PBTSの路線距離。先程紹介した新規ランクイン路線は、いずれもこのPBTSのモノレールシステムを採用しているのです。特に2位から4位までのタイおよび中国の3路線は、いずれも30kmを超え、モノレール路線としては大型案件に分類される内容となっています。対する日立製作所において、新規路線は8位につけるパナマメトロ3号線の27kmのみという状況。今後の受注獲得に期待するばかりです。
 なお、当ランキングでは先程の路線別ランキングにおいて未計上としていた大阪モノレール瓜生堂までの延伸後の営業距離を加算したものと、未加算としてものを併記、掲載いたしました。単純に路線別のランキングを示しているわけではなく、将来的なモノレールマニュファクチャラーの市場への展開具合をランキング化すべきと考えた事によるものです。

それでは最後に、図3をさらにマニュファクチャラー別かつ総合距離に置き換えた図を掲載します。
 
図3.2025年頃におけるモノレールマニュファクチャラー別路線長ランキング

 2025年、マニュファクチャラー別のランキングにおいて1位は安定の日立製作所、トータル距離は271.5kmとなっています。
 次いで2位に付けたのがボンバルディア社およびPBTS。路線別ランキングの項で紹介した様に、タイ、バンコクおよび中国、蕪湖市の計4モノレール路線がランキング上に計上される事で、一気に112km増の135.5kmとなりました。日立製作所のトータル距離に肉薄するまでには至りませんが、今後2025年以降、同社および同社JVの市場への展開次第では先が読めない状況となってきました。
 今回(2018年度版)のランキングでは詳細に触れませんでしたが、ランキング4位につけるBYDも今後最も注目されるべきマニュファクチャラーです。BYDの紹介は別の記事に譲る事としますが、同社はそのコストパフォーマンスと営業力、さらに中国企業および国内生産という利点を生かしつつ、新規での契約受注を多く獲得していると噂されています。これらの契約がある程度安定的となった時点で詳細な内容が公に登場してくる事が予想されるため、次回のランキング紹介記事ではこの点も踏まえ紹介をさせていただければと存じます。

4.さいごに

以上が2018年時点における「世界モノレール営業距離ランキング」の紹介です。昨年2017年に公開した記事の2018年度版という事で事実調査と考察の結果を掲載させていただきました。ここまで紹介してきたランキングは、あくまで2018年時点で判明しているデータを元に制作したものです。モノレールを取り巻く環境の変化は著しく、今後10年の間にもさらなるデータの変化が見られる事となります。本データ調査中にも、実際多くの新設路線計画の情報が飛び込んできていましたが、ある一定の段階で線引きが必要と考え今回の掲載に至りました。ここ数年において、全くの新規マニュファクチャラーとしてモノレール市場に参入したのは、事実上中国自動車メーカーのBYDのみです。しかしながら、同社の契約締結の勢いは凄まじく、少なからず今後のランキングに影響を与えてくるものと推察されます。今後も既存および新規案件の進捗の状況を調査しつつ、次回のランキング記事で紹介させていただきたいと考えております。

/mjws編集室 2018.11.25最終更新データ



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