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懸垂型モノレール-サフェージ(SAFEGE)式モノレール

5-1. サフェージ(SAFEGE)式モノレール

5-1.サフェージ(SAFEGE)式モノレール

 国内の懸垂式モノレールにおいて、最も代表的な方式となったのがサフェージュ式、すなわちSAFEGE式モノレールです。
 SAFEGE式は、1950年代後半のフランスで開発された懸垂式モノレール方式です。開発の中心となったのは、フランスの技術者ルシアン・シャーデンソンらの設計チームで、当時パリの地下鉄で実用化が進められていたゴムタイヤ式走行システムの考え方を、懸垂式モノレールへ応用したものでした。

パリ地下鉄

シャトーヌフ=シュル=ロワール試験線

 この方式の最大の特徴は、車両を支える台車を中空の箱形軌道桁内に収め、その下に車体を吊り下げる点にあります。軌道桁の下面には細い開口部が設けられており、そこから吊り下げアームを通して車体を支持します。走行輪、案内輪、主電動機などの主要な走行装置は箱形軌道桁の内部に配置されるため、走行面が雨や雪の影響を受けにくくなります。
 これは、地下鉄のように走行装置を外気から保護できる利点と、モノレールのように高架化しやすい利点を組み合わせた交通システムでした。走行面が軌道桁に覆われているため、降雨、降雪、凍結の影響を受けにくく、ゴムタイヤ式でありながら天候に左右されにくい構造となっています。また、箱形軌道桁の内部に台車が収まるため、走行騒音の拡散を抑えやすい点も特徴です。
 車両側では、台車から車体を吊り下げる懸垂リンクの作用によって、曲線通過時に車体が自然に振り子状に傾く構造を持ちます。これにより、曲線部でも横揺れを抑え、比較的快適な乗り心地を得ることができます。台車にはゴムタイヤ式の走行輪が用いられ、案内輪によって軌道桁内での左右位置を制御します。必要に応じて非常用の支持機構や案内機構も設けられ、タイヤ式交通システムとしての安全性が確保されました。
 SAFEGEという名称は、フランス語の「Société Anonyme Française d'Étude de Gestion et d'Entreprises」の頭文字に由来します。これは、ミシュラン、ルノーなどを含むフランス国内企業の連合体による研究開発組織であり、モノレール方式そのものの名称としても用いられるようになりました。
 フランス国鉄およびパリ交通公団は、フランス中部のオルレアン近郊、シャトーヌフ=シュル=ロワールにSAFEGE式モノレールの実験線を建設しました。実験線の延長は約1.3〜1.4kmで、1959年4月に着工し、1960年4月に完成しています。その後、1967年頃までフルサイズ車両による試験が続けられました。
 この実験線には、SAFEGE式モノレールの実用化に向けた軌道構造、車両、分岐器、検査設備などが備えられていました。外観は、後に日本で登場する東山公園モノレールに近いもので、車体を箱形軌道桁から吊り下げるSAFEGE式の基本構成がすでに確認できます。なお、この実験線は映画『華氏451』にも登場したことで知られます。その後、オルレアン実験線は1970年から1971年にかけて段階的に解体され、現在は存在しません。
 SAFEGE式モノレールは、フランス国内では大規模な営業路線として発展しませんでした。しかし、その技術は日本へ渡り、三菱重工業によって実用化が進められます。三菱重工業はSAFEGE式モノレール技術の国内導入にあたり、日本エアウェイ開発を設立し、実証路線として名古屋市の東山公園に短距離路線を建設しました。

東山公園のモノレール

東山公園のモノレール

 東山公園モノレールは、1964年に開業した延長約0.5kmの懸垂式モノレールです。動物園駅と植物園駅を結ぶ短距離路線でしたが、日本におけるSAFEGE式モノレールの実用化に向けた重要な試験線でもありました。この路線では、車両、台車、軌道桁、支柱、運行設備などについて実地データが収集され、後の湘南モノレール建設へとつながっていきます。
 東山公園モノレールで得られた技術的知見を基に、1970年には湘南モノレールが開業しました。湘南モノレールは、大船駅から湘南江の島駅方面へ向かう本格的な都市・郊外連絡型の懸垂式モノレールであり、日本で初めて公共交通として本格運用されたSAFEGE式懸垂モノレールといえます。
 湘南モノレールは、急曲線、急勾配、トンネルを含む非常に変化の大きい線形を持ちます。通常の鉄道では建設が難しい地形条件に対して、支柱と箱形軌道桁による高架構造を活用し、道路や地形に沿って路線を通すことができた点に特徴があります。車体が軌道桁の下に吊り下がるため、沿線から見た姿も非常に印象的で、懸垂式モノレールの代表例となりました。
 その後、1988年には千葉都市モノレールが開業します。千葉都市モノレールは、湘南モノレールで得られた実績を基に、より大規模な都市交通システムとして整備された路線です。営業距離15.2kmを持つ世界最長級の懸垂式モノレールとして知られ、千葉市中心部と郊外部を結ぶ都市交通として現在も運行されています。

湘南モノレール500形

千葉都市モノレール0形

 国内におけるSAFEGE式モノレールの系譜は、実験・実証路線としての東山公園、本格的な営業路線としての湘南モノレール、大規模都市交通としての千葉都市モノレールへと発展していったと整理できます。特に千葉都市モノレールでは、軌道桁構造の改良、複線構造、都市内での高架化、全天候性、騒音低減など、SAFEGE式の特徴が都市交通として大きく展開されました。
 なお、東山公園モノレールは1974年に廃止され、現在は東山動植物園内に車両と一部施設が保存されています。営業路線としての役割は短命に終わりましたが、日本におけるSAFEGE式モノレールの技術導入史を語るうえでは、極めて重要な存在です。

〔路線〕
 1964年-1974年 東山公園モノレール
 1970年     湘南モノレール
 1988年     千葉都市モノレール

5-2.三菱重工業による湘南モノレールの全持ち株売却

 2015年5月22日、三菱重工業、三菱電機、三菱商事の三菱グループ系3社は、保有する湘南モノレールの全株式を、交通事業支援会社であるみちのりホールディングスへ譲渡することで合意したと発表しました。
 湘南モノレールは、三菱重工業が国内へ導入したSAFEGE式懸垂モノレールの実用化路線としての性格を持っていました。大船駅から湘南江の島駅までの6.6kmを結ぶこの路線は、単なる地域交通であるだけでなく、三菱重工業にとっては懸垂式モノレール技術の実証、運行データの蓄積、保守技術の確立、ユーザーニーズの把握という意味を持つ路線でもありました。
 一方、2010年代に入ると、三菱重工業は事業の「選択と集中」を進め、グローバル市場で競争力を持つコア事業へ経営資源を集中させる方針を強めていました。湘南モノレールの株式譲渡は、この経営方針の一環として行われたものです。
 この株式譲渡によって、湘南モノレールは三菱グループ主導の技術実証路線という色合いから、地域交通事業会社としての性格をより強めることになりました。みちのりホールディングスは、地域交通事業の再生や運営支援を手がける会社であり、湘南モノレールもその傘下に入ることで、沿線交通としての利便性向上や経営改善を重視する段階へ移行したと見ることができます。
 ただし、これは三菱重工業と湘南モノレールの関係が完全に途切れたことを意味するものではありません。三菱重工業は、株式譲渡後も車両の供給や保守などを通じて湘南モノレールに協力していく方針を示しています。したがって、この出来事は「SAFEGE式モノレールの実証実験が終わった」というよりも、三菱グループが経営主体として関与する時代が一区切りを迎えたものと整理する方が正確です。
 湘南モノレールは、現在も急曲線、急勾配、トンネルを含む独特な線形を走る懸垂式モノレールとして運行を続けています。     SAFEGE式モノレールの実用路線としての技術的価値は、株主構成が変わった後も失われていません。

 写真 湘南モノレール5000系

湘南モノレール400形

5-3.SIPEMシステム

 SAFEGE式モノレールと同じ懸垂式モノレールの系統として、SIPEMシステムが挙げられます。ただし、SIPEMは厳密にはSAFEGE式そのものの直接発展型というより、箱形または閉鎖的なガイドウェイ内を台車が走行し、その下に車体を吊り下げるという点でSAFEGE式と近い性格を持つ、ドイツ系の自動運転懸垂式交通システムと整理できます。
 SIPEMは「Siemens People Mover System」の略で、ドイツのH-Bahnを母体とする懸垂式新交通システムです。ドルトムント大学構内の路線や、デュッセルドルフ空港のスカイトレインなどで採用されました。

H-Bahn

デュッセルドルフ空港スカイトレイン

 オリジナルのSAFEGE式モノレールが都市交通として比較的大きな輸送力を想定していたのに対し、SIPEMは空港アクセス、大学構内、業務地区内移動など、比較的短距離で高頻度運転を行う自動運転のピープルムーバーとしての性格が強いシステムです。一両あたりの乗客数はおおむね65〜75人程度と小ぶりで、短編成・高頻度運転に適した構成となっています。
 SIPEMでは、車両がガイドウェイに吊り下げられ、無人自動運転によって短い運転間隔で運行されます。小規模な輸送需要に対して、地上交通と分離された専用軌道を用いる点では、SAFEGE式モノレールと共通する思想を持ちます。一方で、車両規模、軌道構造、分岐装置、運転制御の考え方は異なり、都市モノレールというよりは自動案内軌条式の懸垂ピープルムーバーに近い位置づけです。
 したがって、SIPEMはSAFEGE式の「派生型」と断定するよりも、SAFEGE式と同じ懸垂式モノレールの一系統として扱う方が適切です。

5-4. 中国・武漢 光谷空軌(光谷光子号)

 近年の懸垂式モノレールにおける注目例として、中国・湖北省武漢市の「光谷空軌」が挙げられます。中国語では「光谷空轨」、車両愛称は「光谷光子号」と呼ばれています。
 光谷空軌は、武漢市の東湖新技術開発区、いわゆる「中国光谷」と呼ばれるエリアに整備された懸垂式モノレールです。正式には観光路線として位置づけられていますが、実際には都市開発エリア内の中低量輸送システムとしての性格も持っています。
 一期区間は、九峰山駅から龍泉山駅までの約10.5kmで、6駅が設けられています。路線は光谷中央生態大走廊内を南北方向に走り、九峰山、高新大道、高新二路、高新四路、綜保区、龍泉山を結びます。将来的には、全体計画として約26.7km、16駅規模の路線が構想されています。
 光谷空軌は、2023年9月26日に開業しました。中国国内では、営業運転を開始した初の懸垂式モノレール路線とされており、中国における空中軌道交通の実用化事例として大きく取り上げられました。
 構造上は、車両が軌道桁の下に吊り下がる懸垂式モノレールです。車体は軌道梁の下方に吊り下げられ、走行装置は上部の軌道桁側に収められます。SAFEGE式と同じく、走行装置を上部軌道側に置き、車体を下に吊るという基本構成を持っています。

光谷空軌

 車両は全自動運転に対応しており、発車、停車、ドア開閉などを自動制御します。運行上は係員が乗務し、異常時対応を行う方式とされています。最高運転速度は60km/hで、2両編成を基本としながら、需要に応じて2〜6両程度まで柔軟に編成を組める設計とされています。
 光谷空軌の大きな特徴は、通勤輸送と観光輸送を兼ねた車両設計です。車両は大きな側窓を備え、床面にも透明窓を設けるなど、空中から景観を楽しむことを強く意識した構成になっています。このため、単なる都市交通というより、都市開発エリアの景観装置、観光交通、実証的な新交通システムという複数の性格を持っています。
 走行装置には、ゴムタイヤ式の走行輪が用いられています。懸垂式モノレールでは、走行輪が軌道桁内の走行面を転がり、案内輪によって車両の左右方向が制御されます。光谷空軌でも、空気入りゴムタイヤ、空気ばね、多方向複合減振装置などを組み合わせ、走行時の振動を抑える設計が採られています。
 電気・制御面では、永磁同期電動機による省エネルギー型の駆動システム、回生ブレーキ、変頻空調、軽量車体などが採用されています。また、外部電源が失われた場合でも、車両が搭載するスーパーキャパシタを用いて最寄り駅まで自力走行できる機能を備えているとされています。これは、高架上で停止した場合の乗客救済を考えるうえで重要な安全機能です。
 軌道構造については、全線でプレハブ化・工場製作を重視した装配式構造が採用されています。支柱や軌道梁を工場で製作し、現地で組み立てる方式とすることで、施工精度の確保、工期短縮、周辺環境への影響低減を図っています。光谷中央生態大走廊という景観性の高い地区を走るため、地上空間を大きく占有しないこと、緑地・水路・歩行空間との共存が重視されました。
 この点で、光谷空軌は従来の都市鉄道や地下鉄とは異なる役割を担っています。大都市の幹線輸送を担う大量輸送機関ではなく、地下鉄や路面電車を補完しながら、観光・通勤・地区内移動を一体的に支える中低量輸送システムとして位置づけられています。
 光谷空軌は、湘南モノレールや千葉都市モノレールのような三菱重工業系SAFEGE式ではなく、中国で独自に開発された現代型の懸垂式モノレールです。車体を軌道桁の下に吊るという基本構成は共通していますが、車両、制御、軌道構造は別系統のシステムと考えるべきです。
 このため、本稿では光谷空軌をSAFEGE式の直接的な発展型ではなく、懸垂式モノレールの考え方を現代の都市開発・観光交通向けに再構成した事例として位置づけます。
 21世紀に入ってから営業運転を開始した本格的な懸垂式モノレールとして、光谷空軌は技術史上も注目される存在です。日本では湘南モノレールと千葉都市モノレールが懸垂式の代表例として知られていますが、中国の光谷空軌は、そこに新たな比較対象を加える路線となりました。

6-1. ブッパータール空中鉄道

 懸垂式モノレールの歴史を語るうえで、ドイツのブッパータール空中鉄道は欠かすことのできない存在です。正式名称は「ヴッパータール懸垂鉄道(Wuppertaler Schwebebahn)」で、オイゲン・ランゲンが考案した懸垂式単軌鉄道システムを実用化したものです。


ブッパータール空中鉄道

ブッパータール空中鉄道


 ブッパータール空中鉄道は、1901年に旅客営業を開始しました。現在のヴッパータール市を構成するバルメン、エルバーフェルト、フォーヴィンケル周辺は、19世紀末には工業都市として発展しており、狭い谷筋に市街地、河川、道路、鉄道が密集していました。地上に新たな鉄道を敷設する余地が限られていたことから、ヴッパー川の上空を利用する懸垂式鉄道が選ばれたのです。
 路線延長は約13.3kmで、現在は20駅を有します。このうち約10kmはヴッパー川の上を走り、残る区間は道路上空を通ります。川の流れに沿って市街地を貫くため、通常の高架鉄道とは異なり、都市の地形そのものを交通路として利用したような線形になっています。
 構造上は、鋼製の高架架構に一本の走行レールを支持し、その下に車両を吊り下げる方式です。SAFEGE式のように台車を箱形軌道桁の内部へ収める構造ではなく、鋼製トラス状の支持構造とレールが外部に見える、開放的な懸垂式モノレールです。車両は上部の走行装置から吊り下げられ、曲線通過時には車体が自然に揺動します。この独特の揺れが、ブッパータール空中鉄道の乗り味を特徴づけています。
 ブッパータール空中鉄道は、鋼構造による古典的な懸垂式都市鉄道として、今なお独自の存在感を保っています。

6-2. ドレスデン懸垂鉄道

 ブッパータール空中鉄道と同じく、オイゲン・ランゲンの懸垂式単軌鉄道の考え方を受け継いだものとして、ドイツ・ドレスデンのドレスデン懸垂鉄道が挙げられます。現地では「シュヴェーベバーン・ドレスデン(Schwebebahn Dresden)」と呼ばれています。
 ドレスデン懸垂鉄道は、1901年に開業しました。ドレスデン市内のロシュヴィッツ地区と、エルベ川を見下ろす丘陵地のオーバーロシュヴィッツ地区を結ぶ短距離路線で、延長は約274m、標高差は約84mです。都市を横方向に結ぶブッパータール空中鉄道とは異なり、ドレスデン懸垂鉄道は丘陵地を上下に結ぶ山岳交通として整備されました。


シュヴェーベバーン・ドレスデン

シュヴェーベバーン・ドレスデン

 構造は懸垂式ですが、運行方式としては通常の電車ではなく、鋼索鉄道、すなわちケーブルカーに近いものです。二両の車両がケーブルで結ばれ、片方の車両が下る力を利用しながら、もう一方の車両を引き上げる仕組みです。車両は地上のレール上を走るのではなく、上部の軌道から吊り下げられて走行します。このため、見た目は懸垂式モノレールですが、運転方式としては懸垂式のケーブルカーと整理するのが正確です。
 軌道は33本の支柱によって支持されています。特徴的なのは、そのうち固定支柱は一つだけで、その他の支柱は温度変化による軌道の伸縮を吸収するため、振り子状に変位できる構造を持つ点です。短い路線でありながら、鋼構造物としては非常に合理的な設計がなされています。
 ドレスデン懸垂鉄道は、ブッパータール空中鉄道と同じく、ランゲン式の懸垂構造を採用しています。しかし、両者の役割は大きく異なります。ブッパータールは都市内を長距離にわたって結ぶ日常交通であり、ドレスデンは丘陵地の高低差を克服するための短距離交通です。技術的には同じ「懸垂式」の系譜にありますが、交通機関としての性格はかなり異なります。
 開業当初、ドレスデン懸垂鉄道の動力は蒸気によるものでした。後に電化され、現在はドレスデン交通企業によって運行されています。上部駅には機械室や展望施設があり、現在では交通機関であると同時に、ドレスデンの歴史的な観光施設としても親しまれています。

 モノレール史の中で見ると、ドレスデン懸垂鉄道は、大規模な都市交通ではありません。しかし、懸垂式単軌鉄道の考え方が、都市内大量輸送だけでなく、斜面地交通や観光交通にも応用できることを示した初期の事例といえます。
 

7.懸垂式モノレールのレール(軌道)

7-1.SAFEGE式モノレール軌道

 懸垂式モノレール、特にSAFEGE式モノレールのレールは、一般の鉄道における二本のレールとは大きく異なります。本稿では、車両を吊り下げる箱形の鋼製構造物を「軌道桁」と表記します。
 SAFEGE式モノレールの軌道桁は、基本的に鋼製です。断面は下方に細長い開口部を持つ箱形であり、内部に走行輪、案内輪、台車、主電動機、懸垂装置などが収められます。車体は、この箱形軌道桁の下面開口部から吊り下げられます。
 軌道桁は、側壁部、天井部、下部桁、スキンプレート、補剛フレーム、走行面プレート、案内面プレートなどによって構成されます。左右の側壁部、天井部、下部桁を溶接によって一体化し、閉断面に近い箱形構造とすることで、曲げ剛性とねじり剛性を確保しています。
 SAFEGE式軌道桁では、車両荷重が軌道桁内の走行面に作用します。走行輪は箱形軌道桁内部の走行面を転がり、案内輪は側面の案内面に接触して車両の左右方向を制御します。車体を吊り下げるリンクは、軌道桁下面のスリットを通して車体上部へ接続されます。このため、軌道桁は単なる橋梁桁ではなく、走行路、案内路、車両支持部、機械装置の収納空間を兼ねた複合的な構造物です。
 SAFEGE式モノレールの軌道桁は、リブをスキンプレートの外側に配置するか、内側に配置するかによって、外リブ型と内リブ型に分類できます。
 外リブ型は、軌道桁の外周側に補剛リブを配置する形式です。外観上、軌道桁の表面に等間隔で補剛リングが並ぶため、サフェージュ式懸垂モノレール特有の印象をつくっています。外リブ型では、軌道桁内部の走行空間を比較的すっきり確保でき、内部の走行面・案内面の配置や保守点検を行いやすい利点があります。
 一方、内リブ型は、リブを軌道桁の内周側に配置する形式です。この場合、リブが軌道桁内部に突出するため、走行輪、案内輪、台車、懸垂装置との取り合いが複雑になります。走行面プレートや案内面プレートも、内側リブを避けるように配置する必要があり、構造詳細や溶接施工が難しくなります。また、内部のリブ周辺に応力集中や腐食の点検死角が生じやすく、保守上も不利となる場合があります。
 このため、国内で営業している湘南モノレールおよび千葉都市モノレールでは、多くの区間で外リブ型の鋼軌道桁が採用されています。特に千葉都市モノレールでは、長大な営業路線としての耐久性、施工性、維持管理性を考慮し、軌道桁構造に改良が加えられました。
 SAFEGE式モノレールの軌道桁は、下面にスリットを持つ箱断面薄肉梁です。この構造では、車両の輪荷重を支えながら、断面形状を保持する機能が非常に重要になります。走行輪からの鉛直荷重、案内輪からの水平荷重、車体の揺動による動的荷重、曲線通過時の横圧、制動・加速時の長手方向力などが軌道桁に作用します。
 このような荷重を受けるため、軌道桁には一定間隔で補剛リブが設けられます。リブは、箱形断面の変形を抑え、スキンプレートの局部座屈を防ぎ、走行面や案内面の位置精度を保つ役割を担います。リブが不足すると、軌道桁断面が荷重によって変形し、走行面・案内面の精度低下や疲労損傷につながる可能性があります。
 従来型の軌道桁では、車両荷重を受ける断面保持機能を各リブが比較的単独で担う構造となっていました。そのため、車輪荷重が作用する近傍のリブや溶接部に応力が集中しやすく、疲労耐久性の面で課題がありました。懸垂式モノレールでは、走行装置が軌道桁内部に収まるため、荷重の作用位置が限られ、局部応力の管理が特に重要になります。
 千葉都市モノレールの建設に先立ち、三菱重工業では建設費削減と軽量化を目的として、新しい軌道桁構造の開発に取り組みました。1982年頃から検討が進められ、1984年頃には、疲労損傷に対する信頼性向上、構造の単純化、軽量化、溶接量の低減を図った新軌道桁が開発されました。
 新軌道桁では、リブをより密に配置するとともに、側面に連続水平スチフナを設けることで、荷重を軌道桁長手方向へ分散させる構造としました。これにより、特定のリブや溶接部に応力が集中することを抑え、疲労耐久性を高めています。さらに、部材構成を単純化することで製作性を高め、溶接量を減らすことで品質管理とコスト面でも改善が図られました。
 従来型軌道桁と新軌道桁のリブピッチは、以下のように整理できます。

従来の軌道桁    新軌道桁 
 曲率半径(m) リブピッチLP(m)   曲率半径(m) リブピッチLP(m) 
 50≦R≦100  1.2  R≦200  1.2
 100<R≦200  1.6
 200<R≦300  2.0  R>200   1.5 
 300<R  2.5
※三菱重工公称値より引用

 この表から分かるように、新軌道桁では曲線条件に応じたリブピッチを簡素化し、従来よりも密な補剛配置を採ることで、局部応力の低減と構造信頼性の向上を図っています。特にR>200mの区間でも1.5mピッチを基本とすることで、断面保持性能を高めながら、製作上の標準化を進めています。
 SAFEGE式モノレール軌道では、箱形軌道桁内が走行空間であるため、排水、結露、防錆、点検性も重要です。走行面が雨雪に直接さらされにくい一方で、内部に侵入した水分や湿気が残ると、鋼材の腐食や電気設備への影響が生じます。そのため、排水孔、防錆塗装、点検口、換気、内部清掃の考え方が軌道桁設計に含まれます。
 また、軌道桁は工場製作された鋼桁を現地で架設するため、施工時には輸送可能寸法、架設重量、支柱との接合、支承、温度伸縮、地震時変位を考慮する必要があります。都市内高架構造として用いられる場合、道路交通への影響を最小限に抑えるため、工場製作による品質確保と短時間架設が大きな利点となります。
 SAFEGE式モノレールの軌道桁は、外観上は単純な箱形桁に見えます。しかし実際には、走行・案内・支持・防音・防候・保守空間を一体化した、高度に機能化された鋼構造物です。国内における湘南モノレール、千葉都市モノレールの実績は、この箱形軌道桁構造が日本の都市環境に適応して発展した例といえます。

[参考資料]
北九州市立交通化学館 /北九州市立交通化学館(-2003)(2004.3閉館)
北九州モノレール50年のあゆみ展 /北九州市立交通化学館(2004.3閉館)
ゆいレール展示室 /沖縄都市モノレール株式会社(2014)
手柄山交流ステーション /手柄山交流ステーション(2015)
    
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8.タイプ別モノレール一覧


目次

モノレールとは?
1.モノレール

2.跨座型モノレール-アルウェーグ(ALWEG)式モノレール
 -2-1.アルウェーグ(ALWEG)式
 -2-2.日本跨座式
 -2-3.東芝式
 -2-4.Bombardier Transportation
 -2-5.Scomi Rail (MTans)
 -2-6.CRRC(中国中車)
 -2-7.モノレールマニュファクチャラー(アルウェーグ式)

3.跨座型モノレール-日本ロッキード式モノレール

4.跨座型モノレールのレール(軌道)
 -4-1.鋼軌道
 -4-2.鋼軌道(分岐器等)
 -4-3.鋼軌道道における降雪および凍結防止策
 -4-4.PC軌道
 -4-5.PC軌道(鋼架台ハイブリッド)
 -4-6.UFC軌道(超高強度繊維補強コンクリート軌道)
 -4-7.ロッキード式(鉄製弾性車輪方式)モノレール軌道
 -4-8.PC軌道桁のサイズ(日本国内)

5.懸垂型モノレール-サフェージ(SAFEGE)式モノレール
 -5-1.サフェージ(SAFEGE)式モノレール
 -5-2.三菱重工業による湘南モノレールの全持ち株売却
 -5-3.SIPEMシステム
 -5-4.中国・武漢 光谷空軌
6.懸垂型モノレール-ランゲン式モノレール
 -6-1.ブッパータール空中鉄道
 -6-2.ドレスデン懸垂鉄道
7.懸垂式モノレールのレール(軌道)
 -7-1.SAFEGE式モノレール軌道

8.タイプ別モノレール一覧