万国博モノレール
-日本万国博覧会・大阪万博モノレール-
-Monorail of EXPO'70-
Straddle-beam monorail (ALWEG) system , Hitachi
日本のみならず今や世界中へ展開される「日本跨座式モノレール」。
その歴史は、全てはこの「万国博モノレール」から始まった。
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1.大阪万博
1970年、大阪ではかの有名な日本万国博覧会「大阪万博」が開催されました。
183日間に渡って開催されたこの博覧会のテーマは「人類の進歩と調和」。
アジアでは初めての開催となった事もあり、推計入場者数5千万人と見込まれた大阪万博では連日30万人を越す大観衆によって盛況を極めました。
同時に、この大観衆を円滑に輸送する交通手段として誕生間もない日本都市型モノレールをベースとした「万国博モノレール」が誕生しました。 |
2.万国博モノレール
大阪万博では、会場内を移動するための交通手段として跨座式モノレールが採用される事となりました。
これが「万国博モノレール」です。
当時、モノレールという交通手段は未だ目新しく、新しい都市交通機関として確立するため様々な取り組みが成されている最中でした。
その一つが、運輸省が昭和42年に社団法人日本モノレール協会に委託して研究された「日本跨座式都市交通用モノレール」です。
それまで「モノレール」といえば、国内では犬山遊園(名鉄)や東京モノレール等が代表的な存在でした。
しかし当時のモノレールは、オリジナルのアルウェーグ式モノレールと同様、走行輪区画が室内に出っ張る(タイヤハウス)事で、室内の乗客スペースが狭くなってしまうというデメリットを持った構造となっていました。
これらの課題を解決するため「日本跨座式(都市交通用)モノレール」では、走行輪の直径を小さくし、従来車両室内に出っ張っていたタイヤハウスをフラットにしました。
これによって客室内の乗客スペースの拡大を図る事が可能となり、モノレールを普通鉄道なみの大量輸送交通機関として確立する事ができました。
大阪万博に採用されたモノレールは、この「日本跨座式(都市交通用)モノレール」をベースに、各所に改良が施されたシステムが使用されました。
特に当時東京モノレール500形で初めて投入された2軸4輪ボギー台車については、「日本跨座式モノレール」では車両システムのベースとされました。
また、システムおよびインフラ部についても、全線全列車中央電子制御方式による自動運転の採用、小形時間短縮型分岐器の開発などが合わせて行われました。
万博場内輸送機関としては当時万博協会常任委員会において、アメリカで開発中のスカイバスを採用する事が既に決定されていました。
しかし、当時の運輸省の担当官はスカイバスは開発途上のシステムであったため、安全性の保証が無いことを問題視し、最終的に跨座式モノレールを採用する事で最終決定される事となりました。
・昭和43年(1968年)1月22日:日本モノレール協会より日本万国博覧会常任委員会宛に「万博場内輸送期間の決定方法の公正な処理要望」を行う。
・昭和43年(1968年)2月2日:日本万国博覧会常任委員会において、万博会場内輸送機関に跨座型モノレールの採用を決定。
万国博モノレールの建設は、1968年(昭和43年)9月に開始、1年6ヵ月という短期間で完了しました。 |
万国博モノレールの概要 |
運営会社(運行) |
東京急行電鉄 |
保守会社(保守) |
東京急行電鉄・東京モノレール |
開業年月日 |
1970年3月13日~9月15日 |
営業距離 |
営業路線長4.274km(検修線長0.22km) |
駅数 |
7駅
(ホーム長:64.8m) |
基地付属駅 |
無し(北口駅~西口駅間)
検修線始点:2.868km397
検修線中心:2.998km397
検修線終点:3.128km397 |
起動仕様 |
福・単線:単線(ループ)
軌道桁断面:w0.8m×h1.4m
軌道桁長:10.8~21.6m
支柱:直径1mの円形(標準断面)
転轍器:関節可撓式(2基)
転轍器長:20m
転轍器曲線半径:91.6m
転轍器作動時分:8秒
最小曲線半径:60m
最急勾配:55‰(長90m) |
モノレール方式 |
跨座式 (日本跨座式)
日立製作所 大型(軌道寸法850mm×1500mm)
図.モノレールの規格一覧
左段:海外マニュファクチャラー
右段:日本マニュファクチャラー |
運転方式 |
(1)自動運転
(出発、ドア開閉のみ列車乗務員が操作)
(2)手動運転
(自動運転故障時)
(3)無人運転
(試験及び夜間車両点検時回送用) |
車両 |
跨座型2軸ボギー電動客車
(日立制作所製)
車両数:24両
車体:平床鉱製軽量構造
台車:走行ゴムタイヤ4輪使用2軸ボギー台車
(空気ばね懸架式) |
編成 |
4両固定編成(6本在籍)
100型式+200型式+300型式+400型式
(Mc1)+(M2)+(M1)+(Mc2) |
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3.万国博モノレール路線(ルート)および停車駅
3-1.ルート概要
万国博モノレールの路線は、大阪万博会場内の各パビリオンを繋ぐ環状路線として建設されました。
路線延長4.274kmの全線単線で、片方向反時計回りの運行によって大阪万博会場内を一周します。
また万国博モノレールのルートの特記点として、インフラ部に万国博協会基幹施設基準色塗装を施した事が挙げられます。
本来PC軌道桁や支柱等はいわゆるコンクリート色をしていますが、万国博モノレールではルート上全ての支柱および軌道桁に白色塗装が施されました。
営業線延長 4.274km(単線環状線)
検修線 0.22km
内訳 高架部:2.925km、地平部:1.348km
別途地平部には、モノレール軌道周囲に高さ1.8mの安全防護柵が設置されました。 |
旧中央口駅方面を万博記念公園南側より見る。 |
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3-2.停車駅および検修場
設置された停車場は合計7箇所。
大阪万博のメイン入場口となる中央口駅についてはコンクリート構造、その他の停車場は全て鉄骨構造による建設が成されました。
駅舎屋根部分にはカラーテントが採用されました。
またルートは展望に配慮し、基本的には高架(該当区間長2.9km)による敷設となりましたが、検修場、東口駅、西口駅、北口駅付近等はグラウンドレベル(該当区間長1.3km)による敷設となりました。
設置駅および配線図(万国博モノレール) |
駅名称 |
駅構造および配線 |
中央口駅 |
2面1線 高架駅
(乗降分離式)
コンクリート構造 |
両面ホーム(乗降分離)ホーム幅6.0
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エキスポランド駅 |
1面1線 高架駅
鉄筋構造 |
片面ホーム ホーム幅5.4m
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東口駅 |
1面1線 高架駅
鉄筋構造 |
片面ホーム ホーム幅7.2m |
日本庭園駅 |
1面1線 高架駅
鉄筋構造 |
片面ホーム ホーム幅5.4m |
北口駅 |
1面1線 高架駅
鉄筋構造 |
片面ホーム ホーム幅6.8m |
西口駅 |
2面1線 高架駅
(乗降分離式)
鉄筋構造 |
高架駅
両面ホーム
乗車側ホーム幅5.4m
後車側ホーム5.8m
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水曜広場駅 |
1面1線 高架駅
鉄筋構造
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高架駅
両面ホーム ホーム幅5.4m
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検修場 |
運輸事務所9mx55m 一部2階建1個所
変電用撥器 信号機器
運輸司令室 運輸事務室 宿直室
修繕上屋9mx1.5m 1個所
検査室1.8mx3.6m 1個所
自動洗浄機 1台
点検台および洗浄台 1式 |
大阪万博の遺構「太陽の塔」 |
万国博モノレールのルートより中央環状線を挟んで南側には、現在大阪モノレールが開業している。 |
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4.車両
万国博モノレールでは、日立制作所製の100、200、300および400形が新造され、Mc1-M2-M1-Mcの4両固定編成(100形(Mc1)、200形(M2)、300形(M1)、400形(Mc2))で運用されました。
100形およぴ400形(先頭部)は、展望を考慮した大形ガラスが採用されたほか、他に類を見ない斬新なデザインとなりました。
なお、先頭車両となる100形および400形の床下には、万国博モノレールの心臓部とも言えるATO(自動運転装置)、定位置停止装置および自動停止装置が収められていました。
合わせて、手動運転用の運転台も同形両端に設置されていました。
さらに400形では、車端側台車部に自動運転用速度計発電部駆動用車輪が設置されています。
万国博モノレールは、「モノレール」という交通システムを今後の大量都市交通機関として認知させるためのPR路線としての意味も持ち合わせていました。
このため、輸送人員拡大のための車両長増大のためには絶対条件として挙げられる「2軸ボギー台車」を採用しました。
2軸ボギー台車は、万国博モノレール建設の時点で既に、東京モノレール500型で採用および実績がありました。
この改良型が、万国博モノレールに投入される事になります。
ブレーキ装置については電気指令式空気方式が採用されました。
これは、万国博モノレールではATO(自動運転方式)による運行を前提としており、各車両にブレーキユニットを装備する事でブレーキのレスポンス向上およびタイムラグ縮小を図り、自動運転の指令に敏感に順応するよう工夫したものです。
ブレーキの制御段数は自動運転時15段、手動運転7段となっていました。
万国博モノレールではATOによる自動運転が導入されましたが、実際の営業運行時には列車の前方に1名の乗務員が乗車しました。
これは、ドア開閉および出発ボタンの操作を行う事を目的とするためで、その他の動作は列車が自動的に行いました。
また、列車点検時や営業終了後の夜間列車回送時には無人運転を行いました。
車両諸元 |
車種 跨座式電動客車
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走り装置 空気バネ式2軸ボギー台車
駆動装置 2段減速直角カルダン
主電動機 375V 65kWx16台/編成
制御装置 ATO連動自動加減速多段式,(カム軸)電空連動制動
補助電源装置 電動発電機およびアルカリ蓄電池
戸締装置 電磁空気操作自動開閉片側2個所/両
連結装置 車両間 棒式連結器
先頭部(救援用) 特殊棒式連結器
空気ブレーキ装置 電気指令式空気ブレーキ
通信装置 FM式列車無線装置
信号保安装置 チェックイン,チェックアウト式列車検知
自動列車運転装置 可変式速度バンド方式,定位置停止制御
最高速度制限式
速度計装置 電気式速度計
集電装置 給電軌条側面接触式 |
運転方式 3方式(手動、自動、無人) |
列車組成 Mc1-M2-M1-Mc2 4両固定編成
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最大寸法 列車長 61,260mm/編成
幅 2,960mmm
高さ(桁上) 3,580mm |
電気方式 直流1,500V
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定員 540名
135(100形)、135(200形)、135(300形)、135(400形)
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満員 967名
223(100形)、260(200形)、260(300形)、224(400形) |
車両自重 106t
26.0(100形)、24.3(200形)、24.3(300形)、26.0(400形) |
運転性能
加速度 3km/h/s
減速度 3.5km/h/s
最高速度 60km/h
最大登坂能力 55‰ |
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5.日本跨座式モノレールの展開
万国博モノレールは、大阪万博において無事故無災害および大量の人員を円滑に輸送するという使命を全うしました。
大阪万博閉会後、同線は廃止となりましたが、この成功を機にモノレールが都市交通機関として飛躍的に発展していく事になります。
日本国内では5路線の日本跨座型モノレールが開業を果たし、今や世界中へも展開されるに至りました。
当時人々を熱狂の渦に巻き込んだ「大阪万博」、その影で、モノレール大国日本の礎を築いた路線が「万国博モノレール」だったのです。
万国博モノレール以後に開業した日本跨座型モノレール(日本国内) |
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日本跨座式大型
1985年開業
北九州高速鉄道(北九州モノレール)
小倉線
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日本跨座式大型
1990年開業(千里中央-南茨木間)
大阪高速鉄道(大阪モノレール)
本線・彩都線
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日本跨座式大型
1998年開業
多摩都市モノレール
多摩都市モノレール線
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日本跨座式大中型
2001年開業
舞浜リゾートライン |
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日本跨座式大中型
2003年開業
沖縄都市モノレール
(ゆいレール) |
万国博モノレール以後に開業した日本跨座型モノレール(海外) |
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日本跨座式大型
2005年開業 |
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日本跨座式小型
2007年開業 |
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日本跨座式大中型
2009年開業 |
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日本跨座式大型
2011年開業 |
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日本跨座式大中型
2015年開業 |
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【参考文献】
社団法人日本モノレール協会20年のあゆみ/日本モノレール協会
日立運輸東京モノレール社史/日立運輸東京モノレール株式会社社史編集委員会
モノレールカーの自動運転(ATO)/刈谷志津郎,高岡征/日立評論昭和40年4月
鉄道ピクトリアル 1988年12月号 No.504 特集:モノレール/鉄道図書刊行会
鉄道ピクトリアル 昭和45(1790)年4月号 No.236 特集:日本のモノレール/鉄道図書刊行会
東京モノレールのすべて 東京モノレール開業50周年記念企画/河野孝司・戎光祥出版株式会社
モノレールと新交通システム/グランプリ出版 2004.12.1
〈特集〉万博・湘南モノレール開通2ヶ月の成果
モノレール No.16 (協会誌)/日本モノレール協会 1970.6 |